制度とお金 ・ 時期 4:家に戻って

障害年金をもらいながら働けるのか脳卒中のあとの、お金の設計

「働いたら年金が止まる」と思って、働くことをためらっている人がいます。でも、大人になってから脳卒中を発症した人にとって、その心配は前提が違います。まずその誤解を外し、そのうえで、年金を土台に収入をどう組み立てるかを書きます。

全文 約15分短い版 約3分20歳以降に発症した人を中心に書いています

最終確認日
2026年10月13日
年金額
令和8年4月分から
一次情報
日本年金機構・厚生労働省 ほか

最初に、結論を書きます

  • 働いたという事実だけで、障害年金が止まることは、原則としてありません。
  • 所得で止まる仕組みがあるのは、20歳より前に初診日がある障害基礎年金だけです。大人になってから脳卒中を発症した人は、当たりません。
  • ただし、数年ごとの更新で、障害の状態によって等級が変わることはあります。肢体の障害は、働いているかではなく、日常生活の動作で判断されます。
  • 障害年金には税金がかかりません。生活の土台になります。
  • 土台があるから、合わない仕事を断れます。収入を、働くこと一本に賭けない設計を勧めます。

短い版では、結論・止まる仕組み・注意・チェックリストだけを表示します。

1. 「働くと年金が止まる」は、どこから来た話か

所得で止まるのは、20歳前に初診日がある人だけ

20歳より前に初診日がある障害基礎年金には、所得による支給停止があります。保険料を払っていない期間の障害に対して支給されるので、所得の制限が付いています。

20歳前に初診日がある障害基礎年金の所得制限
前の年の所得どうなるか
3,858,000円以下全額支給
3,858,000円を超え、4,918,000円以下2分の1が止まる
4,918,000円を超える全額が止まる
  • 扶養親族がいると、1人につき38万円が加わります(老人控除対象配偶者・老人扶養親族は48万円、特定扶養親族などは63万円)。
  • 止まるのは10月分から翌年9月分まで。毎年判定し直されます。
  • 「収入」ではなく「所得」で判定されます。給与なら、給与所得控除を引いたあとの額です。

20歳以降に発症した人

所得による支給停止の仕組みは、ありません。脳卒中の多くは働いている世代で起きます。初診日が20歳より後なら、この所得制限は関係ありません。

海外に住んだときなど、ほかの理由で止まることはあります。でも、働いて収入を得たこと自体は、止まる理由になりません。

2. 更新で、等級が変わることはある

年金が止まるかどうかとは別に、障害年金の多くには数年ごとの更新があります(障害状態確認届、いわゆる更新の診断書)。このとき障害が軽くなったと判断されれば、等級が下がったり、支給が止まったりします。

ここで、肢体の障害と精神の障害では事情が違います。

  • 肢体の障害(麻痺など)は、日常生活の動作がどこまでできるかで判断されます。働いていること自体を評価する仕組みにはなっていません。
  • 精神の障害(高次脳機能障害を含む)は、働いている状況も考慮すると、国のガイドラインに書かれています。

その精神の障害のガイドラインでも、次のように書かれています。

  • 就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度による就労は、1級または2級の可能性を検討する。
  • 一般就労していても、仕事の種類・内容・就労状況・職場で受けている援助などを確認したうえで判断する。
  • 労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えない。
厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の要旨

注意:更新の診断書には、日常生活の実際を伝えてください

働けている場面だけが医師に伝わると、実際の暮らしとずれた診断書になります。更新の前には、診断書を書く医師に、家でできないこと、介助が要る場面、疲れて動けない日を正確に伝えてください。

3. いくら入るのか

障害基礎年金(令和8年4月分から・昭和31年4月2日以後生まれ)
等級年額月額のめやす
1級1,059,125円約88,260円
2級847,300円約70,608円

子がいる場合は加算があります(2人目まで1人243,800円、3人目から1人81,300円)。

初診日に会社員などで厚生年金に入っていた人は、障害基礎年金と障害厚生年金の2階建てです。障害厚生年金は、それまでの給与と加入期間で額が決まります。1級・2級には配偶者の加給年金(243,800円)が付くことがあります。

3級は、障害厚生年金にしかありません(最低保障635,500円)。「2級に届かないから何ももらえない」と思い込んでいる人がいますが、厚生年金に入っていた人には3級があります。

非課税障害年金に所得税・住民税はかからない働いて収入が増えても同じ
別物手帳の等級と年金の等級基準が違うので一致しない

請求の時期は障害者手帳と障害年金、申請の時期に書きました。

4. 働いて得る収入の現実

希望的な数字だけを書いても役に立たないので、公表されている水準を並べます。

働き方と収入の水準
働き方収入の水準性質
障害者雇用(一般企業)身体障害者の平均賃金は月約23万5千円(令和5年度)雇用契約あり。最低賃金が適用される
就労継続支援A型事業所により幅がある雇用契約あり。最低賃金が適用される
就労継続支援B型平均工賃は月22,649円(令和5年度)雇用契約なし。工賃であって賃金ではない

B型の工賃だけで生活することは、できません。これは事業所を責める話ではありません。B型は、働いて稼ぐ場であると同時に、生活のリズムを作る場・人と関わる場としての意味が大きいものです。

だからこそ、収入を働くこと一本に賭けない設計が要ります。

5. 収入は、組み合わせて設計する

収入源の性質と役割
収入源性質役割
障害年金安定・非課税・自動土台。生活の下限を決める
特別障害者手当安定・所得制限あり当たれば土台を厚くする
障害者雇用(在宅など)安定・時間の拘束あり体調の波と合うかを見極める
業務委託・フリーランス不安定・時間が自由成果で売るので、働ける時間が読めなくてよい
自分のメディア・執筆とても不安定・積み上がる時間はかかるが、資産になる
就労継続支援A型・B型低額・支援あり訓練と居場所としての価値

土台があるから、無理な働き方を断れる

これが、いちばん言いたいことです。

「働けないと生活できない」状態で仕事に戻ると、無理をして体を壊します。逆に、年金という土台があると、合わない仕事を断れます。これは消極的な選択ではなく、長く続けるための設計です。

体調の波と、働き方の形

脳卒中のあとには、疲れやすさ、痙縮、通院、再入院がついてまわります。働ける時間そのものが読めないということです。

時間を売る雇用契約は、この不安定さと相性がよくありません。成果を売る形(業務委託、請負、自分のメディア)のほうが、体調の波を吸収できます。どちらが正しいという話ではなく、自分の波の大きさに合わせて形を選ぶ、という話です。

6. 見落とされているお金

特別障害者手当

20歳以上で、著しく重度の障害のため、日常生活で常に特別の介護が要る在宅の人に支給される手当です。

  • 月額 30,450円(令和8年4月から)。2月・5月・8月・11月にまとめて支給
  • 本人・配偶者・扶養義務者の所得制限があります
  • 施設に入所している人、3か月を超えて入院している人は対象外
  • 申請は市区町村の障害福祉の窓口。申請した月の翌月分から

障害年金とは別の制度で、両方受け取れます。四肢麻痺のように常に介護が要る状態なら、当たる可能性があります。知らずに申請していない人が多い手当です。

障害者控除(所得税)

所得税の障害者控除
区分控除額
障害者27万円
特別障害者(身体障害者手帳1・2級など)40万円
同居特別障害者75万円

働いて給与がある人は、この控除で手取りが変わります。年末調整か確定申告で、必ず申告してください。

働いている間の介助

重度訪問介護は、原則として働いている時間には使えません。介助が要る人ほど働けない、という構造でした。

これを埋めるのが、「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」(2020年10月開始)です。

  • 働いている間や通勤のときに、重度訪問介護などと同じような支援を受けられます
  • 雇われている人だけでなく、自営業やフリーランスも対象になりえます
  • 実施するのは市区町村です。住んでいる市区町村が実施していなければ使えません。厚生労働省が実施自治体の一覧を公表しています

7. 雇う側の制度も動いている

2026年7月から、民間企業の障害者の法定雇用率が2.5%から2.7%に上がりました。雇用の義務がある企業の規模も、従業員40.0人以上から37.5人以上に広がりました。

民間企業の法定雇用率
時期法定雇用率対象の企業の規模
2023年度2.3%43.5人以上
2024年4月から2.5%40.0人以上
2026年7月から2.7%37.5人以上

求人の数そのものは増える方向にあります。ただ正直に書くと、障害者雇用の枠の求人は、今も事務補助や軽作業が中心です。枠が増えることと、自分に合う仕事が増えることは、同じではありません。

8. 確認しておくこと(チェックリスト)

チェックは、この端末の中だけに残ります。印刷して相談に持っていくこともできます。

注意:個別の判断は、専門の窓口に確認してください

この記事は制度の説明です。年金の等級や更新の結果は、日本年金機構が判断します。個別のことは、年金事務所、市区町村の窓口、社会保険労務士に確認してください。制度は改定で変わるため、確認印の日付と下の一次情報もあわせて確認してください。

出典(一次情報)

最終確認日 2026年10月13日

  1. 日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」(2026年10月1日更新)
    https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20200805.html
  2. 日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」
    https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150514.html
  3. 日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」
    https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-02.html
  4. 厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」
    https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12512000-Nenkinkyoku-Jigyoukanrika/0000130045.pdf
  5. 青森県「特別障害者手当及び障害児福祉手当」(令和8年4月からの月額)
    https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/syofuku/teate.html
  6. 国税庁「No.1160 障害者控除」
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1160.htm
  7. 厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39062.html
  8. 厚生労働省「平均工賃(賃金)月額の実績について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41739.html
  9. 厚生労働省「障害者雇用率制度」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaisha/04.html
  10. 厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」(重度障害者等就労支援特別事業の実施自治体)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou_00017.html

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